SIAS(脳卒中機能評価表)とは?評価方法と注意点について

 

脳卒中リハビリにおいて、患者の身体機能や認知機能を正確に評価することは、効果的な治療計画の立案に欠かせません。その中でも、SIAS(Stroke Impairment Assessment Set)は、運動機能や感覚、筋緊張、高次脳機能など、脳卒中患者の多面的な機能障害を包括的に評価するツールとして注目されています。SIASは、評価がシンプルで再現性が高いことから、リハビリテーション現場で広く活用されています。本記事では、SIASの基本的な評価項目から具体的な評価方法まで、詳しく解説します。脳卒中リハビリを支援するすべての方に役立つ内容ですので、ぜひ最後までご覧ください。また、SIAS評価シートもダウンロードできますので是非ご活用ください。

 

 

 

目次

SIAS(Stroke Impairment Assessment Set)とは?

SIASの評価項目:脳卒中リハビリで何を評価するのか

SIASの具体的な評価方法と手順を徹底解説

運動機能

筋緊張

感覚

関節可動域、疼痛

体幹機能

高次脳機能

健側機能

SIASによる予後予測と効果判定

 

SIAS(Stroke Impairment Assessment Set)とは?

SIAS(Stroke Impairment Assessment Set)とは、脳卒中患者の機能障害を総合的に評価するために日本で開発された評価法です。運動機能、感覚機能、言語機能、高次脳機能など、複数の領域にわたる項目を含みます。これにより、患者の障害の程度を客観的に把握し、個々のニーズに合わせたリハビリテーション計画の立案が可能となります。SIASは評価が簡便で再現性が高いことから、臨床現場で広く活用されています。また、評価結果は治療効果のモニタリングや研究データとしても有用であり、脳卒中リハビリテーションにおける重要なツールとなっています。

 

SIASの評価項目:脳卒中リハビリで何を評価するのか

SIASの評価項目は、脳卒中患者がリハビリテーションで回復すべき機能を詳細に捉えるために設計されています。主な評価項目には、上肢・下肢の運動機能、筋緊張、感覚機能、関節可動域、疼痛、体幹機能、高次脳機能などが含まれます。これらの項目を通じて、患者の運動機能だけでなく、感覚や認知機能まで総合的に評価します。これにより、個々の患者に適したリハビリテーション計画を立案し、効果的な治療を行うための基盤を築きます。

 

SIASの具体的な評価方法と手順を徹底解説

ここからは実際にSIASを用いて評価を行う際の具体的な手順や方法を詳しく紹介します。初心者から経験者まで、SIASの評価を行う全ての人にとって有益な内容です。

 

運動機能

①上肢近位(膝・口テスト)

座位において患肢の手部を対側膝(大腿)上より挙上し、手部を口まで運びます。この際、肩は90 まで外転させ、そして膝上まで戻します。これを3回繰り返します。肩、肘関節に拘縮が存在する場合は可動域内での連動をもって課題可能と判断します。

0:まったく動かない
1:肩のわずかな動きがあるが手部が乳頭に届かない
2:肩肘の共同連動があるが手部が口に届かない
3:課題可能。中等度のあるいは著明なぎこちなさあり
4:課題可能。軽度のぎこちなさあり
5:健側と変わらず。正常

 

②上肢遠位(手指テスト)

手指の分離運動を母指~小指の順に屈曲、小指~母指の順に伸展していきます。

0:まったく動かない
1:1A:わずかな動きがある。または集団屈曲可能
1B:集団伸展が可能
1C:分離運動が一部可能
2:全指の分離運動可能なるも屈曲伸展が不十分である
3:課題可能(全指の分離運動が十分な屈曲伸展 を伴って可能)。中等度のあるいは著明なぎこちなさあり
4:課題可能。軽度のぎこちなさあり
5:健側と変わらず。正常

 

③下肢近位(股関節テスト)

座位にて股関節を90°より最大屈曲していきます。3回行い、必要ならば座位保持のための介助をしてかまいません。

0:まったく動かない
1:大腿にわずかな動きがあるが足部は床から離れない
2:股関節の屈曲運動あり、足部は床より離れるが十分ではない
3:課題可能。中等度のあるいは著明なぎこちなさあり
4:課題可能。軽度のぎこちなさあり
5:健側と変わらず。正常

 

④下肢近位(膝伸展テスト)

座位にて膝関節を90°屈曲位から十分伸展(-10°程度まで)していきます。これを3回行い、必要ならば座位保持のための介助をしてかまいません。

0:まったく動かない
1:下腿にわずかな動きがあるが足部は床から離れない
2:膝関節の伸展運動あり、足部は床より離れるが十分ではない
3:課題可能。中等度のあるいは著明なぎこちなさあり
4:課題可能。軽度のぎこちなさあり
5:健側と変わらず。正常

 

⑤下肢遠位(足パットテスト)

座位または臥位で行います。(座位は介助しても可)踵部を床につけたまま、足部の背屈運動を協調しながら背屈・底屈を3回繰り返し、その後なるべく速く背屈を繰り返します。

0:まったく動かない
1:わずかな運動があるが前足部は床から離れない
2:背屈運動あり、足部は床より離れるが十分でない
3:課題可能。中等度のあるいは著明なぎこちなさあり
4:課題可能。軽度のぎこちなさあり
5:健側と変わらず。正常

 

筋緊張

⑥上肢筋緊張

肘関節を他動的に伸展屈曲させ、筋緊張の状態を評価します。

0:上肢の筋緊張が著明に亢進している
1:1A:上肢の筋緊張が中等度(はっきりと)亢進している
1B:他動的筋緊張の低下
2:上肢の筋緊張が軽度(わずかに)亢進している
3:正常。健側と対称的

 

⑦下肢筋緊張

膝関節の他動的伸展屈曲により評価します。

0:下肢の筋緊張が著明に亢進している
1:1A:下肢の筋緊張が中等度(はっきりと)亢進している
1B:他動的筋緊張の低下
2:下肢の筋緊張が軽度(わずかに)亢進している
3:正常。健側と対称的

 

⑧上肢腱反射(上腕二頭筋または上腕三頭筋)

0:上腕二頭筋あるいは上腕三頭筋反射が著明に亢進している。あるいは容易にクローヌス (肘、手関節)が誘発される
1:1A:上腕二頭筋あるいは上腕三頭筋反射が中等度(はっきりと)に亢進している
1B: 上腕二頭筋あるいは上腕三頭筋反射がほぼ消失している
2:上腕二頭筋あるいは上腕三頭筋反射が軽度(わずかに)亢進
3:上腕二頭筋あるいは上腕三頭筋反射とも正常、健側と対称的。

 

⑨下服反射(膝蓋腱反射またはアキレス腱反射)

0:膝蓋腱反射あるいはアキレス腱反射が著明に亢進している。あるいは容易にクローヌス (膝、足関節)が誘発される
1:1A:上膝蓋腱反射あるいはアキレス腱反射が中等度(はっきりと)に亢進している
1B: 膝蓋腱反射あるいはアキレス腱反射がほぼ消失している
2:膝蓋腱反射あるいはアキレス腱反射が軽度(わずかに)亢進
3:膝蓋腱反射あるいはアキレス腱反射とも正常、健側と対称的

 

感覚

⑩上肢触覚(手掌)

0:強い皮膚刺激もわからない
1:重度あるいは中等度低下
2:軽度低下、あるいは主観的低下。または異常感覚あり
3:正常

 

⑪下肢触覚 (足底)

0:強い皮膚刺激もわからない
1:重度あるいは中等度低下
2:軽度低下、あるいは主観的低下。または異常感覚あり
3:正常

 

⑫上肢位置覚 (母趾or示指)

指を他動的に運動させていきます。

0:全可動域の動きもわからない
1:全可動域の運動なら方向がわかる
2:ROMの1割以上の動きなら方向がわかる
3:ROMの1割未満の動きでも方向がわかる

 

⑬下肢位置覚 (母趾)

足趾を他動的に運動させていきます。

0:全可動域の動きもわからない
1:全可動域の運動なら方向がわかる
2: ROMの5割以上の動きなら方向がわかる
3:ROMの8割未満の動きでも方向がわかる。

 

関節可動域、疼痛

⑭上肢関節可動域

他動的肩関節外転を行います。

0:60°以下
1:90°以下
2:150°以下
3:150°以上

 

⑮下肢関節可動域

膝関節伸展位にて他動的足関節背屈を行います。

0:-10°以下
1:0°以下
2:10°以下
3:10°以上

 

⑯疼痛

脳卒中に由来する疼痛の評価を行います。既往としての整形外科的(腰痛など)、内科的(胆石 など)疼痛は含めない。また過度でない拘縮伸張時のみの痛みも含めない。

0:睡眠を妨げるほどの著しい疼痛
1:中等度の疼痛
2:加療を要しない程度の軽度の疼痛
3:疼痛の問題がない

 

体幹機能

⑰垂直性

0:座位がとれない
1:静的座位にて側方性の姿勢異常があり、指摘・指示にても修正されず、介助を要する
2:静的座位にて側方性の姿勢異常(傾で15°以上)があるが、指示にてほぼ垂直位に修正、維持可能である
3:静的座位は正常

 

⑱腹筋

車椅子または椅子に座り、殿部を前にずらし、体幹を45°後方へ傾け、背もたれによりかかります。大腿部が水平になるように検者が押さえ、体幹を垂直位まで起き上がらせます。(検者が抵抗を加える場合には、胸骨上部を押さえること)

0:垂直位まで起き上がれない
1:抵抗を加えなければ起き上がれる
2:軽度の抵抗に抗して起き上がれる
3:強い抵抗に抗して起き上がれる

 

高次脳機能

⑲視空間認知

50 cmのテープを眼前約50cmに提示し、中央を健側指で示してもらいます。2回行い、中央よりずれの大きい値を採用。

0:15cm以上
1:5cm以上
2:3cm以上
3:3cm未満

 

⑳言語

失語症に関して評価する。構音障害はこの項目には含めない。

0:全失語。まったくコミュニケーションがとれない
1:1A:重度感覚性失語症(重度混合性失語症も含む)
1B:重度運動性失語症
2:軽度失語症
3:失語症なし

 

健側機能

㉑握力

座位で握力計の握り幅を約5cmにして計測する。健側の具体的kg数を記載すること。

0:握力0kg
1:握力10kg以下
2:握力10~25kg
3:握力25kg以上

 

㉒健側大腿四頭筋力

座位における健側膝伸展筋力を評価する。

0:重力に抗しない
1:中等度に筋力低下
2:わずかな筋力低下
3:正常

 

SIASによる予後予測と効果判定

最後に臨床でのSIASの貢献度はリハビリテーションに携わっている方であれば言うまでもありませんが、文献的に確認していきたいと思います。一つ目は回復期リハビリテーション病棟退院時の歩行自立・非自立を予測するためのカットオフ値を調べた研究において、初期評価時のSIAS総点で59点、SIAS(運動機能-下肢)で9点,SIAS(体幹機能)で3点,SIAS(感覚)で9点以上という結果が出ました。二つ目は脳卒中治療の効果判定においてSIASの有用性を調べた研究では、SIASの改善と歩行能力の改善に関連があるとされており、脳卒中治療の効果判定においても有用な指標であるという結果になっていました。評価表に関してはこちらからダウンロードできます。

【SIAS(Stroke Impairment Assessment Set)評価シート】

 

 

【参考文献】
①編 細田多穂・柳澤健(2010)『理学療法ハンドブック-第1巻 理学療法の基礎と評価』協同医書出版社.
②岡林 輝親ほか . 脳卒中患者の退院時歩行自立のための入棟時SIASカットオフ値の算出―回復期リハビリテーション病棟患者を対象とし” .J-STAGE . 脳卒中患者の退院時歩行自立のための入棟時SIASカットオフ値の算出, (2024-11-1) .
③熊谷健一ほか . 脳卒中治療の効果判定におけるStroke Impairment Assessment Setの有用性-NIHSS,BI,FIMとの比較検討- .理学療法学. 2015 ,vol 42, no7 , p.554-561 .

 

 

 

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脳梗塞リハビリSSP高松
理学療法士 井上